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身元保証人と賠償額について

企業に入社される際、身元保証人の記名押印を求められた契約書を提出された事がある方も多いと思います。
先日、知人から、「自分は子供の身元保証人になっているけど、どこまで有効なのか」という相談がありました。
とりあえず、大切なご家族が人生の節目である入社を控え、この様な契約書に記名押印を求められたら、取り急ぎサインされるケースも多いと思います。
では、この身元保証人の契約書、いつまで有効なのでしょうか?しかも、もしも労働者本人の帰責事由による賠償が発生した場合、「身元保証人に損額による1億円までの賠償を行う」と書かれていた場合、有効なのでしょうか。今日はこれらを解説したいと思います。
(不安を抱えた知人にとって、少しでも力になれたらと思います。)

 

(身元保証人の任期について)
身元保証には以下の任期が定まっています。
・就業規則に期間の定めがないときは、3年
・期間の定めがあっても、最長5年
つまり、入社後5年以上経たれている労働者の身元保証契約は自然に解消されていることになります。

 

(民法改正で上限額を記載しなければ効力が発生しない点)
2020年4月、民法の改正があり「身元保証書」の取り扱いが大きく変わりました。
実は、2020年3月末日迄は、賠償額を決めずに身元保証契約ができたのですが、2020年4月からは、
極度額を定めないと効力が発生しないという事(※1)になり、身元保証書に記載する必要が出てきました。
しかし、極度額だから一億円でも良いかどうか、実際一億円と記載しても良いのかという点ですが、
やはりあまりにも高額だと、入社時の身元保証人を探すのが難しくなる可能性が出てくるかと思います。
そこで、最近は平均的に100万円~1000万円としている企業が多く感じられます。

 

(では実際労働者の帰責事由により損害賠償額が発生した場合、労働者側が全てを負担するのか?)
企業側としては、
「損害を起こした労働者本人が悪いので、限度額まで全額きっちり支払うのが当然だろう」
と言いたくなるようなケースもあると思いますが、
労働者本人及び身元保証人が賠償するときの賠償額は、企業側ではなく、裁判所が総合判断します。
例えば、前方不注意によりタンクローリー同士の追突事故を起こして自社のタンクローリ-と相手の会社のタンクローリ-に損害を発生させた労働者に対し、どこまで損害賠償を請求できるのか争われた裁判(茨城石炭商事事件)では、「車両については、対人賠償責任保険、対物賠償責任保険、車両保険がありますが、それぞれ加入するかどうかは会社の判断により加入が決まるのであって、従業員の意思で加入することはできません。会社が対物賠償責任保険や車両保険に加入していれば損害額を抑えられたこと、従業員の担当業務、給与、勤務成績、勤務態度、不注意の内容・程度などを考慮して、会社が従業員に請求できるのは、損害額の4分の1が限度です。」としました。判例から見る最近の傾向としては、損害額の25%程度を従業員負担の上限とすべきものとされているケースが多く、保証人に対しても同様であると考えられます。

 

(身元保証法から解する有効性)
身元保証法では、使用者に対し、次の事項を身元保証人に通知することを求めており、身元保証人は、当該通知を受けたとき、または通知内容の事実があったことを知ったときには、将来に向けて保証契約を解除することができるものとされています(身元保証法第3・4条)。
1.被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こすおそれがあることを知ったとき。
2.被用者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加えて重くし、またはその監督を困難にするとき。
さらに、裁判所による保証人の責任を制限する規定を設けており、次を考慮する事由として挙げています(身元保証法第5条)。
3.被用者の監督に関する使用者の過失の有無
4.身元保証人が身元保証をするに至った事由およびそれをするときにした注意の程度
5.被用者の任務または身上の変化その他一切の事情
このように身元保証人に対し、使用者としての責務を果たしていることが前提にあり、
当該責務を怠っている場合には、当然に保証人への損害額の請求ができなくなります。
あくまで、社員を業務面で日常的に監督する立場にあるのは、保証人ではなく、企業自身なのです。
少なくとも報償責任の理論で仕事をさせるにあたり企業側も利益を得ているのであり、
企業として、本来行うべき監督を行わなかったために発生した損害を保証人に賠償させることは辻褄が合わないのではないか、
つまり労働者の過失について企業が身元保証人に損害賠償を請求したとしても通らないのではないかという可能性が高いと思います。

 

なお、労働者が出向先で起こした問題に対しては、身元保証人は責任を負わないとされています。(坂入産業事件 浦和地裁 昭和58.4.26)

 

(企業が身元保証制度を行う場合の注意点)
企業が従業員に賠償請求をするような事態は無いに越したことは無いのでですが、
万が一のトラブル時に、さらなる揉め事をつくらないためにも、
「身元保証制度を採用する」と決めた場合、その制度を形骸化させないように注意をしてください。
下記4点を注意されておく必要があるかと思います。
①身元保証制度を見直してみる(2020年4月の改正に沿っているかどうか)
②賠償額の上限額設定をするかどうか、検討する
③身元保証人への説明書を作成する
④採用時に正しく運用する
※今までに取得した身元保証書を、改めて取り直す必要はありません。
以上4点です。

 

身元保証制度について、
身元保証人にとっても責任を大きく感じる契約書に繋がります。
労働者本人は、そういった意味でも責任感を持って、誠実にお仕事頂きたいと感じます。
そして、こういった契約書が活用されるような事件が起こらないよう、と思います。

 

松尾

 

(※1)第465条の2(個人根保証契約の保証人の責任等)
 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。

 

(※2)身元保証ニ関スル法律 特別法コンメンタール

 

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