年次有給休暇の取得届に年次有給休暇の理由を書く欄の違法適法について
多くの会社様では、年次有給休暇の取得申請について
口頭のやり取りだけではなく、
「有給休暇取得届」や「有給休暇取得願」等、申請方法があるのではないでしょうか。
その有給休暇取得届には大抵の場合、
希望する有給休暇取得年月日(もしくは時間や半日など)
とともに「理由」を記入する欄があるかと思います。
こちらは、
「どこまで詳細に書かないといけないのか?」とか、
「有給休暇の取得は自由だから理由を聞くことが失礼ではないか?」「理由を聞くのは違法ではないか?」
というご質問を頂くことがございます。
果たして違法でしょうか、適法なのでしょうか?
有給休暇は労働者の権利であり、本来はこの権利を行使するにあたって理由を述べる必要はありません。
最高裁でも
「休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である」と述べられています。
つまり、原則として上司が申請の理由を問いただす法的根拠はなく、労働者側も申請理由について答える義務はありません。
答えないことに抵抗があれば「私用」「所用」と書くと良いかと思います。
上司が部下に対して、聞く必要のない理由を執拗に詮索するような行為は、プライバシーの侵害やパワハラ、セクハラなどにあたる可能性もありますので、もしも理由を問う場合は労働者の嫌がらせにならないよう気をつける必要があります。
なら何故に、理由を記載する欄がわざわざ設けられているのでしょうか?
それは、使用者(会社)の時季変更権の行使の判断の為に、
理由を聞くことが必要な場合が有るからです。
労働者が繁忙期に有給休暇を取得することで、事業の正常な運営をさまたげる場合、使用者は有給取得日を「変更」することができます(労働基準法第39条5項)。
使用者(会社)は有給の取得を拒否することはできませんが、労働者に要請し、取得時季をずらしてもらうことができます。この時季変更権を行使すべきか否かを判断する場合に、必要かつ妥当な範囲であれば、理由を聞く行為は問題ありません。
たとえば、繁忙期に有給休暇を申請した労働者が複数名いた場合、その中の何名かに出勤してもらわなければ、通常営業ができないとします。
その場合、有給休暇取得の理由などによって取得する緊急性、重要性、優先順位を判断することが想定されます。
こうしたケースでは判断材料として有給休暇の取得理由を聞くことに妥当性が生じえます。
よって、時季変更権が認められている以上、
使用者が有給取得の理由を聞くことは直ちに違法とはなりません。
また、申請書に理由欄を設けることや、労働者が任意で理由を伝えることも問題ありません。
違法と判断されやすいのは、以下のような場合などが考えられます。
① 理由を言わなければ取得できない。
② 理由によって取得を拒否される。
③ 取得することで不利益な扱いを受ける。(人事考課に響く、賞与が減額されるなど)
④ 「時季を変更してほしい」と聞いていたのに、別の日にも一切取得させてもらえない。
⑤ 退職時の有休消化について時季変更を要求される。
例えば、申請するたび毎回理由を深く聞かれるといった場合は、時季変更の確認とは言い難く、違法性が疑われることがあります。
なお、時季変更権は、代替要員がいる場合や慢性的に忙しいことを理由に安易に行使できるわけではありません。
使用者(会社)は労働者が自由に休暇を取得しても正常な運営ができるように配慮したうえで、それでも業務に支障が出る場合に限り、時季変更権を行使することができます。
弊社では、有給休暇の残日数計算、取得日数計算、時効消滅の計算も含め、有給休暇に関するトラブルや労働問題について、ご相談をお受けしております。
ご不明な点やご不安があれば是非弊社プライマリ社会保険労務士法人へご連絡下さい。
松尾倫加